僕が出会った中で最もインターネットだった男


僕はインターネットというものを神聖視し過ぎているところがある。

いや、この場合のインターネットは「インターネット」という単語の話であって、ブロバイダとか回線とかブラウザとかそういう話じゃない。僕は勝手にインターネットという単語に、それ以上の意味を付けてしまっている。好き過ぎて。

「お前、インターネットだな」というのが、僕の中で最大級の誉め言葉であって、言う時は相手に対して全力で敬意を払っているし、僕の言われたい言葉NO.1でずっとあり続けている。

僕の中でのインターネットの意味を無理やり言語化すると、なんだろう、「無益な道化」「全く意味のない美学」「オシッコとうんことゲロのカクテルを素晴らしいものだと品評する老紳士」「真実の下痢便」とか、そんなようなのが近いかもしれない。

でも「お前って真実の下痢便だな」って言われたら怒る。めっちゃ怒る。小さい子だったら親呼んで泣くまで怒る。だから、厳密にはどれも違うし、やっぱりこのニュアンスはインターネットとしか言い表せないと思う。 

説明するのが難しいので説明するのをもう諦めるけど、とにかく今日は今まで僕が会った中で一番インターネットだった男の話をしたい。

 

彼とは中学生の時に、当時通っていた塾で出会った。名前は内田くん。

見た目は、そうですね、インターネットでしたね。えーと、きっとこれはみなさんと共通の認識だと思うんですけど、見た目に対してのインターネットという評価は完全に悪い意味です。キモオタでした。

仲良くなったきっかけはあんまり覚えてないんだけど、まあ冴えない同士で気が合ったんだと思う。事実、2人ともテキストサイト(当時流行ってた文章だけの個人サイト)とか見てたし、趣味は合った。

そんなわけで僕と内田くんは、くだらない話をしながらいつも一緒に帰ってた。ところが、ある日、僕は同じ学校の女の子とたまたま授業終わりに話をしてて、流れでその子と一緒に帰ることになった。

それを見た内田くんが顔を真っ赤にして身体を震わせながら「永田くん?! 永田くん!! キミもそっちに行くのかい?! 行かないでくれよ、永田くん!! いつもみたいにエロゲーの話をしようよ!! 人体改造モノの!! ねえ、射乳の話しよ!?」と女の子に聞こえるように塾内で大声で叫び出した時、こいつを殺そうと思ったと同時に、悔しいけど身体全部でインターネットしてるなと感心してしまった。

 

当時は携帯メール全盛の時代、内田くんとは塾外でも連絡を取り合ってたんだけど、こいつから来るメールというのも大概ふざけていた。

基本的にはプレイしたエロゲーの気に入った文章を唐突に送り付けてくるだけなのだが(「逸脱」というゲームの「おれは、射精した」という一文を特に気に入っていた)、急にめちゃくちゃな長文メールを送り付けてきたことがあった。

内容は「同じ塾の榎本くんという男に『うんちをするところを見てくれ』と頼まれた僕が、彼の排便シーンを眺めて何かに目覚めてしまう」というのを克明に綴った文字通り糞みたいな官能小説だった。うんちの出る「ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅううううぅぅぅ~~~~~」という音も克明に綴っていた。

携帯メールに受信料がかかる時代にてめえナメてんのかという内容だが、その榎本くんというのがそんなに注目されない、言ってみたら塾内の冴えない存在で(もちろん一番冴えないのは俺たちだったけど)、誰も話題にしないわりによくよく顔を見るとなんか面白い、という絶妙な人選だったことにも腹が立った。

ふざけんなよ、すっげえ面白いじゃねえか。内田くんの才能にますます腹が立つ。

以来、榎本くんがクラスに入ってくるたびに「永田くんのフィアンセが来たよ」と囁き、トイレに席を立とうものなら「永田くん、行かなくていいの?! チャンスだよ!? 絶対待ってるって!!」と大興奮する内田くん。

授業後にいきなり塾教材の裏に描かれた腕時計の絵を見せてきて、「永田くん、腕時計のスケッチをしてたら気付いたら授業終わっちゃったよ」と微笑む内田くん。

そのくせ頭が良くて、いつも僕よりテストで良い点を取り「永田くんって…、ふふふ…、やっぱり……、ちょっと頭がアレなんだねぇ…」とニヤつく内田くん。たまに僕に負けると目を見開いてガクガクと痙攣し始める内田くん。

 

僕の記憶の中の内田くんはいつだってインターネットだ。

なぜか最近やたらと内田くんのことを思い出す。内田くんのようなインターネットな人間がインターネットにおらず、僕みたいなインターネットじゃない奴がインターネットに残っている。

オモコロで記事を書いたりだとか、あの頃一緒に見ていたテキストサイトの延長のような仕事に就いてる僕のことを内田くんはどう思うだろうか?

「すごいね」と言ってくれるだろうか? それとも「永田くんって…、ふふ…、全然面白くないねぇ…」とニヤつくのだろうか? なんとなく後者な気がするし、そうであってほしい。

どうしても内田くんのことが気になって、Facebookで本名を検索してみたが見当たらなかった。残念だったけど、安心した。Facebookなんて全然インターネットじゃない。

Google検索してみたら、10年くらい前の地域の将棋大会みたいなものに内田くんと同姓同名の人が出ていた。将棋が趣味だったかは忘れたけど、あれが内田くんであってほしいな。